東京高等裁判所 昭和46年(う)2952号 判決
被告人 株式会社マルアイ 外一名
〔抄 録〕
本件記録を精査すると、被告会社は、昭和二五年ころ、青色申告書提出(以下青色申告という)の承認を受けたが、被告人村松は、被告会社の代表者として自ら現金売上の一部除外、簿外預金の蓄積および簿外利息の取得、棚卸除外などによりその帳簿書類に取引の一部をかくし、また仮装するなどし、本件申告に際し、所得を過少に申告し、かつ価格変動準備金、貸倒引当金、退職引当金(以下価格変動準備金などという)を損金に算入したことおよび被告会社は、被告村松が右のように青色申告の要件に反したため、本件申告書提出後である昭和四四年二月一五日に所轄鰍沢税務署長から本件事業年度分以降について右承認を取消す旨の決定を受け、同月二八日書留郵便によりその旨の通知を受けたことが認められる。そしてその結果さきに提出した青色申告書は、青色申告書以外の申告とみなされ、価格変動準備金などの損金算入が認められないこととなり、その分だけ所得が増加し、その所得増加に応じて税額が増加したこととなったのである。
しかし、確定申告にかかる法人税逋脱の罪は偽りその他不正の行為により納付すべき税額を申告納付しないで、納付の期限を経過したときに、成立するものであることは明らかである。したがって、その犯罪の成否および犯罪の量(逋脱税額)は、その時点における納付すべき正当な税額と確定申告にかかる税額との差額によってきまるものといわなければならない。その差額が零であれば、逋脱犯は成立しない。前者(正当税額)が後者(申告税額)よりも多額であるときは、逋脱犯が成立する。その犯罪の量は、その差額である。犯罪の不成立または成立およびその犯罪の量はこの時点で確定する。したがって後になって、犯罪でなかった行為が犯罪となったり、あるいはすでに成立した犯罪の量が増減したりするというようなことはありえないのである。それ故青色申告の承認を取消すという行政処分の遡及的効力も過去に遡って逋脱犯を成立せしめ、または、既に成立した過去の逋脱犯の犯罪の分量を増大せしめることはできないのである。
ところで、青色申告の承認を受けた法人が確定申告をする際価格変動準備金などを損金に算入することは法令上認められた行為である。したがって、確定申告後右承認が取消された結果価格変動準備金などの損金計上が否認され、これに応じて所得額が増加し、したがって税額もまた増加したとしても、そのことは前段説示のように、法人税の逋脱という犯罪の成否またはその分量を過去に遡って左右すべきものではなく、単なる徴税上の問題にすぎないのである。それのみでなく、その増加した部分は、(青色申告者が偽りその他不正の行為によって税を免かれようとした場合には、その承認の取消を待つまでもなく、当然青色申告承認の効力は消滅し、税務署長の取消は単なる確認行為に過ぎないとでも解するのは別として。当裁判所は、これを否定する。)確定申告当時においては存在しなかったのであるから逋脱のしようがないのである。したがって、犯意の成否を論じる余地は全くない。そういうわけで、価格変動準備金などに関しては逋脱犯は成立しないというべきである。
そうだとすると、原判決が被告会社の価格変動準備金一、三四二万九、九二八円、貸倒引当金一、三〇四万七、一〇〇円および退職引当金一五二万八、九五七円の損金算入を否認し、これに基づいて算出した税額と確定申告にかかる税額との差額について逋脱犯の成立を認めたことは、法人税法第一五九条第一項の解釈適用を誤った違法があり、判決に影響をおよぼすことが明らかである。論旨は、理由がある。
(三井 石崎 四ツ谷)